亀田● これは日本ではあまり語られなかった事件だよね。だから私は遠森くんから聞くまでは知りませんでした。
日本だと「ビックリっ子大集合」などで「四次元の世界」なんていうのをやってましたよね。矢追純一もやっていました。
四次元の世界に迷い込んでしまうというのは、子供の頃から割とポピュラーで、よく耳にしていましたよね。嘘か本当か分かりませんが、四次元に迷い込んだ人が、まったく違う土地に現れたりする、それで汽車に乗って帰ってきたりするんです。
でも、その韓国のケースのように「時間」も超越しちゃったという話は、これまでは聞いたことがなかったです。
遠森■ 日本では「浦島太郎」が、本人の自覚してる時間よりも長くたっていて・・・。
亀田● 自分だけ取り残されて、周りは年がたっちゃってる。浦島太郎さんにとっては二、三日、あるいは一週間くらいだったのに、周りの世界は何百年もすっ飛んでしまっているんだよね。それを「ウラシマ・エフェクト」というんです。
遠森■ ウラシマ・エフェクト、なるほど。
亀田● SFで宇宙船が「ワープ航法」というのをするじゃないですか。あれは意図的にウラシマ・エフェクトを起こしてるんです。時間をも飛び越えてしまうわけです。
遠森■ そういう体験って、皆さん何かありますか?
ウラシマ・エフェクトほどでなくても、子供の頃、変なところに行っちゃった記憶があるとか、数日間消えちゃってた記憶がある、もしくは、変なところに入り込んだままになっているため、いま自分がいる世界と、生まれた世界は違うのだという記憶がある方、いらっしゃいますか?
亀田● よく学校帰りに、正規の道じゃなくて、いわゆるネコ道みたいなところを入って、ひとの家の敷地を抜けたり、そういうことしたじゃないですか。そういうときに、ぜんぜん違うところに出てしまった記憶があるとか。
D◆ はい
遠森■ あ、どうぞ。
【 多重次元 】
D◆ 遠森さんはじめまして。Dといいます。皆さんにも「一日市南部ばやし」でお世話になっています。
それで私、不思議な体験があります。小学2年のとき、ぼくはもともと東京の中野区に住んでおり、杉並の学校に行っていました。その日は学校の行事で、電車にひとりで乗って杉並公会堂に行く、そういう日だったのです。
でもその日は朝からなぜか「東西南北が逆だ」と感じていたんですよ。それで駅に行って、電車が入ってきたら、電車の文字が逆だったんです。ほかの看板とかはそうじゃないのに、電車の文字だけが逆。
亀田● それ、すごいですね! Dさんとは長い付き合いですけど、初めて聞きました! 方向幕だけが逆文字になっていたんですか?
D◆ はい。もしかしたらその電車の方向幕が裏になってたのかもしれないんですが、とにかく文字が逆で、ドキッとした覚えがあります。
でも普通に駅に着いて、その日は普通に終わったんですけれども、その朝の電車の文字が逆だったという、小学2年、7歳のときの記憶は強く残っています。
亀田●遠森■ ありがとうございます。
遠森■ 文字が逆の世界というのはときどき聞くんですよね。精神症状として全部の文字が逆になるというのはあるんですけれど、一部の、特定の文字だけがと逆というのは、精神症状としては説明がつかないです。
しかしそういう、異世界に入ったら一部の文字だけ逆になっていたという体験談はときどき報告されています。こういう現象って、何なんでしょうね。
亀田● Dさん、周囲の建物とかも逆になっていたというわけではないんですか?
D◆ 東西南北が逆になっているという認識があって、電車もいつもと逆に走っている認識があったのですが、目的の駅にはちゃんと着きました。その現象はフッと戻ったんですけれども。
亀田● フッと戻った・・・。
遠森■ いまゾーッとしました。それに似た話があります。
ある女の子が、壁のスキマのほこりを取ろうとして、テレホンカードのようなものを使い、そこをシュッと掃除したそうです。するとその瞬間、部屋が上下逆転した・・・という話があるんです。
亀田● それは日本で?
遠森■ 日本です。上下だか左右だか忘れたけれど、とにかく部屋が逆になった。それでこれは大変だということで、いろいろやってみるけど元に戻らない。
女の子は孤軍奮闘して、元のことをやってみようと思いたち、また壁のスキマをシュッとやったら元に戻ったんだそうです。
なぜスキマをシュッ!でそんなことが起きたのか、分からないんですけれども、とにかく何かのきっかけでこの世界は、別の世界とつながっちゃうんじゃないか、ということですよね。
これについて、東京大学附属病院の救急救命センター、いわゆるERですね、そこの室長であった矢作直樹さんという方がいます。いまは退官されていますけど、この方が救命センターで任期満了までずっとやってこられた中で「次元の重なり」ということを主張しておられます。この方は霊的なものがちょっと見える、感じ取る人なんです。
(ボードに素粒子の略図を描く)
物質がこう有るとして、この像をどんどん拡大して見ると、それは素粒子なんですね。我々が見ているもの全てが素粒子の集まりです。
それで矢作さんは、この素粒子レベルになると、いろんな次元が重なっているんだというんです。この重なっていることを「多重次元」といって、いくつもの別次元があり、死んだ人はその別次元に行くのだと、この東大病院ERの矢作さんは言っておられました。
それで何かの拍子にそういう世界に近づいてしまうと、体の調子が悪くなったり、病気になったりもするし、ふとした拍子に向こう側が見えちゃったりもするのだ、ということを言っておられます。
それで、もしかすると、これは矢作説を私なりに敷衍、ビローンとおっぴろげて考えたことですけれども、物は振動しているんですね。小さい粒子が振動することによって、固体ができたり液体ができたりしているわけです。
この振動数が何かの拍子に合ってしまったときに、我々は変な世界を見てしまうんじゃないか、そういうところに妖怪とかお化けとかがあるんじゃないかと思うんです。
(ボードを叩いて) このように固体というのは硬いですけど、これ素粒子が振動してるだけなんですね。
だもんで、10の14乗というとてつもない回数、頭をぶつけ続けると、いつか通過するらしいですよ。亀田くん、やってみてください(笑)。通り抜けて、また帰ってくるときは10の14乗。
亀田● そりゃ帰って来る前に命がないね(笑)
遠森■ あ、なるほど命がないか。・・・というわけで、違う世界というのは、そういう別の次元から来た何者かによって、物語につづられたり、思い出に記銘されたりして、私たちの記憶の中に残っているんじゃないかなぁ、と思うんですよ。
【 マヨイガ 】
遠森■ さて、サムトからいろいろ推理して語りました。
消失してまた帰ってくるというのは、違う次元に行って、時間も違うからラグができて戻って来るのだろうと、とりあえずまとめてみました。
それではまた、次いきましょう。亀田くん、サムトの他に、何か遠野物語で印象に残っているものを・・・。
亀田● そうですね、「マヨイガ」も印象深いですね。
遠森■ ああマヨイガ。いいですねえ!
亀田● あれもちょっと異次元譚に近い気がします。
遠森■ うん、そうですね。あれの現代版として、2001年に発生した「広島県マヨイガ事件」って、ご存知の方いらっしゃいますか。これは現実に起きたんですが、広島県の山深い町の夜、ある一家のことです。
家族構成は、祖母と息子夫婦、その娘の4人で、あとペットの犬がいました。そしてその家では翌朝のごはんの用意など、ぜんぶ明日の準備ができていました。さらに息子のお嫁さんに至っては、翌日から勤め先の社員旅行で中国に行くことになっていて、それをとても楽しみにしていたそうです。
また、都会に出ている娘さんも、たまたまその夜は帰ってくることになっていて、ごちそうを作って待っていました。翌朝の食事も蠅帳の中に準備されていました。
こういう状況で、一家まるごと消えたという事件です。
亀田● いわゆる「マリー・セレスト状態」というやつですね。
遠森■ そうです。ただ、これは蒸発とか消失というのとはちょっと違っていて、都会から娘が帰ってきたときの車の音と、そのあと一家で出かけるときの車の音、この両方を、近所の人が聞いているんですね。だから家の中でフッと消えたわけじゃないです。
でも、その失踪に至る車には、家族全員とペットの犬まで乗せているんですよ。なんでそこまで・・・旅行の準備万端、晩ごはんも湯気が立ってる、朝ご飯も準備していた、その状況でなぜ犬まで連れて逃げるか。これ、このあとで誰かが「何々さーん」と言ってこの家を訪ねてきたら、その人にとってはまさにマヨイガですよ。現象としてだけ見たら完全にマヨイガ。
亀田● そうだね、現代のマヨイガだね。
遠森■ うん。それでこれは「広島のマヨイガ事件」として西日本では大きく報じられました。そして、たまたま翌年、近くのダムの水位が下がったか何かで、この家の車が湖底から発見されたんですね。その車内からは、犬も含めた全員の遺体が見つかりました。
そういう可哀想な事例なんですけれども、なぜこういうことが起きたのか、さっぱり分からないんですよ。
亀田● 家では宴というか、食事の用意が出来てるのになぜ出かけたか、何から逃げたのかということだよね。


「ふしぎばなしの夕べ」前半 p.2
