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「ふしぎばなしの夕べ」
前半 p.5

I◆ ちょっと違うかもしれませんが、三歳くらいのときの記憶ですが、なぜか三歳くらいの時の不思議な記憶が多いんですけど。

 

 当時私、釜石の親父の会社の社宅に住んでいて、駅の近くに踏切があるんです。社宅からだと結構な距離があるんですが、なぜか三歳のときに三輪車で1キロくらいある道を走っていって、踏切の上で止まっていたんですよ。

 

 それで、「R世界、L世界」じゃないけど「結界」みたいな感じで、そこから先は行けない、踏切には入れないみたいなのがあったんですけど、なぜかその日は踏切の真ん中で止まっていました。汽車がきたら死んでしまいますよね。

 

 それで、近くに住んでいる親父の同僚の人が見つけてくれて、家まで送ってくれたのです。

 なぜ三歳のとき、一人でそこまで行って、結界の中に入っていたのか、未だに分からない。記憶には確かにあるんですけれども。

 

亀田● 道路にしろ、川にしろ、まあ鉄道も一種の道路ですから、「境界」というのがありますよね。

 それで、境界というのはあいまいで、私は「亜の世界」、亜細亜の亜と書いて亜の世界と呼んでいるのですが、あちらでもこちらでもないという微妙な世界なんで、そういうところに民俗学的な現象やエピソードが生まれやすいと考えています。

 

 じっさい何かあったのかもしれませんね。しかも踏切というのは、線路に道路がクロスしているわけですから、異界がちょっと複雑に交差しているのかもしれません。

 

I◆ 通り過ぎてても良かったと思うんですけどね。なぜか結界の真ん中で止まってたんです。

 

亀田●「その先は行っちゃいけない」と思ってたのかもしれませんね。

 

I◆ かなり距離が結構あるのに行ったんですよ、三歳の頃。

 

亀田● ありがとうございます。面白い話が聞けました。

 

遠森■ ありがとうございました。・・あ、それからこれ、ちょっと遠野から離れちゃうんだけど、少しいいかな。

 

亀田● うん、どうぞ。

 

 

【コックリさん】

 

遠森■ 幽霊方面の話なんですが、特に女性の方にうかがいたいのですが、コックリさんについてなんです。私、というか男の子ってあまりコックリさんやらないんですよね。女の子がよくやるんです。

 

亀田● 女子は子どもの頃から恋愛の話が好きだもんね。

 

遠森■ うん。男の子があんまり見てないところで、放課後、誰かの家に集まったりとかして・・・。

 

亀田● 隠れてやってたよね(笑)

 

遠森■ それで、あれって大人、学者が「無意識に動かしているのだ」と解釈するんですよ。それで、私やったことないから「ああ、そういうものなのか」と思っていたんです。

 ところが今年のはじめ、このセッションの計画を立てていて、嫁さんに

「遠野で怪異譚をトークするよー」

 と言ったら、コックリさんの体験を話してくれたんです。

 それで私が

「コックリさんって怪異じゃないでしょ、無意識に動かしちゃうんでしょ」

 と言ったら、

「いや、そんなことないよ、スイスイ動くんだよ」と・・・。

 

「スイスイ動くって、そんなバカな!」

 と私がのけぞると、

「本当にスイスイ動くんだよ、三人でやって、指が追いつかなくなるほど動くときもあったよ」

 と言うんですよ。それで、

「そんなことあるの!?」

 と私が驚き、なぜ今まで教えてくれなかったのかと問うと、

「だってそれが普通だから、別段言うほどでもないと思って、言わなかっただけ」

 だと。コックリさんというのはそういうものなんだと。

 

 ・・・で、スイスイ動いてる子は、案外コックリさんとのコミュニケーションがうまくいってて、定番の「帰ってくれない」トラブルにもあまり遭遇しない。「お帰りください」と言えばちゃんと帰ってくれるんだと。

 むしろ無意識に自分で動かしてる子のほうが、ひきつけを起こしたり霊障にさいなまれたりするんだと。

 

 それで嫁さんたちは、小学校から帰ったら普通にそういうことをしていて、「スイスイ動いて面白いね、ミズスマシみたいだね」なんてやってた。

 それが女の子の、子供の頃の日常だった、

 だから珍しくもないと思い、格別に報告もしなかった・・・

 

 そう言われたのですが、女性の方にうかがいます、男性の方でも、コックリさんの経験がある方、教えて下さい。

 どんな感じでしたか? なんでもいいですので、聞かせてください。

 

I◆ では私が。

 

遠森■ なんでもやってますね! 宝庫ですね(笑)

 

I◆ コックリさんは、小学校6年生のとき、かなり流行りました。

 それで放課後、クラスに残ってやっていました。

 私がやってたのは男の子同士です。まわりにはギャラリーがいっぱいいて、それは男女混じっていました。

 

亀田● ギャラリーがいたんですね(笑)

 

I◆ はい。それで、あるときコックリさんが帰ってくれなくなった。

 何をやっても帰ってくれない。

 周りにも聞いて、これをやったら帰ってくれるよと教えてもらうんだけど、どうしても帰ってくれない。

 自分でコインを動かしてる感じではなかったです。やってる相手はどうだか分かりませんが、でも勝手に動いていましたね。

 

 ・・・で、帰ってくれないのでやり続けて、いくつか質問をしたんです。

 「あの子の好きな子は誰か」とか。

 すると、隣のクラスの子の名前を答えてくれたりするんですよ。こっちはその子のこと全然知らないのに、ちゃんとそういう名前が出てくるんです。

 

亀田● 隣のクラスの知らない子なのに、名前が出てくるんですね。

 

I◆ はい。それでいろいろ質問を続けて、やっと帰ってもらえました。

 そのときは、クラスがだんだんざわめいて、「ダメだ、いつまでたっても帰ってくれない、どうすんだ」ってなって・・・。

 

遠森■ 救急車を呼ぶ事態になって、とうとう教育委員会が問題にしたり、大変だった時期がありましたよね。パニックを起こして吐いてしまう子が出たり・・・。

 結局どうなりましたか、おかしくなっちゃった子とか出ましたか。

 

I◆ そこまではいきませんでしたが、他のクラスからもいろんな子が来て、「こうしたほうがいいんじゃないか」とか、いろんなアドバイスをもらって、みんなで協力しあって、なんとか無事に・・・。時間はかかりましたが、帰ってもらえました。

 

亀田 ちょっと怖いですが、ちょっといい思い出でもありますねそれは。

 

I◆ そうですね。みんなの協力があって、帰ってもらえたという。

 

亀田● 大槌小学校のころの思い出。

 

I◆ はい。6年生のときです。

 

遠森■ そういえば、こんな話があります。

 ある中学の女の子が放課後、教室でコックリさんをやっていたら、帰ってもらえなくなっちゃって、大騒ぎしていた。

 

 そしたら男の子たちが「どうしたどうした!」と助けに来てくれて、コックリさんにいろいろ尋ねて、「どうしたら帰ってくれますか、エロ本置いたら帰ってくれますか」と聞いたら「はい」を示したんですって。

 

 それで、ひとりの男子がなぜか持っていたエロ本を横に置いたら、無事に帰ってくれたんですって。

 それ以来その学校では、コックリさんをやるとき、横にエロ本を置く伝統ができたと(笑)。よくわかんないやり方。

 

亀田● 面白いね! でもフォークロア、民俗学的なことって、そうやって生まれていくんだろうね。

 

遠森■ そうだねえ。・・・でも最近エロ本って無いでしょ、その中学、どうしてるんだろう。

 

亀田● ネット時代だもんね。ノートパソコン置いてんじゃない?

 

遠森■ アダルトサイトをひらいて? 味もへったくれもないなぁ(笑)

 

亀田● ぼくらの世代だと、またつのだじろう先生の話になっちゃいますけど、つのださんが言うには「あれは神様でもキューピット様でもなく、低級霊なんだから、やるな」ということでしたね。帰らなくなった例もいくつか挙げておられました。

 ただ、それは漫画の中のエピソードですし、取材はしていましたけど、多分にエンターテインメントで、どこまで本当かは分かりませんけれども。

 でもまあ、つのだ作品はやはり怖かったですね。私はあれを読んでコックリさんをやめました。

 

遠森■ 亀田くん、コックリさん、やってたんだ。

 

亀田● うん。つのだ氏の漫画「恐怖新聞」や「うしろの百太郎」に出てくるんだよね。それで、やっていたときは、「キツネが来ている」とも言われていたので、油揚げを用意してやったりしてました。「おキツネさん」だと言って・・・。

 

遠森■ ふうん・・・。あれは元々ウィジャボードだよね? イギリスの・・・。

 

亀田● そうだよ。文字盤にプランシェットという器具をのせ、それに何人かが指を置くと、プランシェットが動き出すという交霊術だ。これ、かなりコックリさんに近いやり方なんだよね。

 あと西洋には、みんなでテーブルを囲んで行う「テーブル・ターニング」というのもあって、降霊すると、テーブルが動いたり傾いたりしたそうだよ。

 

遠森■ それらが日本の文明開化のときに入ってきて、コックリさんになったんだね。

 

亀田● うん。それで私は、ウィジャボードもコックリさんも、いわゆる自動書記現象の一種なんじゃないかと思ってる。

 

遠森■ あっ、そう言えばそうだね! 交霊によって文字を書くか、コインで文字を示していくかの違いだけで、結果的には自動書記と同じことをしているんだな。

 

 それにしても、先ほど述べた通り、嫁さんから「スイスイ動く」と言われたときは本当に驚きました。スイスイ動くってことは、ああ、やっぱり霊が来ているんだ・・・と。

 それだけでも驚きなのに、学校中の女の子、あるいは男の子まで加わってやってたわけでしょう、コックリさんも大変ですよね。どれだけの数のコックリさんがいて、あちこちに降霊していろんなことを教えて・・・。

 

亀田● ああ、あれね、異界にちゃんとセンターがあって、オペレータがいてね。今オペレータを増員してますっていうときもある。

 

遠森■ なるほど。労働組合とかもあるの?

 

亀田● あるある(笑) 残業規定とか最近うるさいんだ。気をつけたほうがいい。皆さんもコックリさんの労働状況に気をつけてあげてください。

 

遠森■ 厳しくなってきたね。じゃあ、たとえばお告げが当たらなかったら、ちょっと・・・

 

亀田● もちろんクレーマーもいます。カスタマー・ハラスメント、カスハラが増えちゃって、だから最近、コックリさんは流行らなくなっちゃった(笑)。

 

遠森■ あー、そういう経緯で、コックリさんをやる人が減ってきたのか。

 ・・・ワケがわからなくなってきた。

 

 

 【 生まれ変わり 】 

 

遠森■ ではちょっと趣向を変えまして、生まれ変わりの話をしたいと思います。

 これは最近、ご当地の岩手県であったことなんですけども、2020年代に入ってからです。

 それでおそらく、盛岡とかの市街地に住んでるご夫婦宅のお風呂場で、そこの家の4歳くらいの子どもが念仏を唱えていたと。

 

亀田● そのご夫婦の子どもが、一人で?

 

遠森■ そう。念仏を唱える我が子を見つけた母親が「どうしたの」と声をかけたら、

「私は1960年に生まれて、30歳代まで生きて死亡した者です、生まれは岩手県の農村地帯のどこそこで、自分は今、どういうわけかここに来てしまったのです、失礼いたしました」

 というようなことを、幼児の口を借りて語るんです。

 

亀田● 依代にしたってことだね。

 

遠森■ そうです。このとき、お母さんが機転を利かしてスマホで動画を撮ってるんですね。これが以後役に立ってきます。

 

亀田● お母さん、ナイスプレイだ。

 

遠森■ うん。わかりやすいように、このご夫婦の男児をAくん、30歳代で亡くなって、たまたま降りてきた男性をBさんと呼ぶことにしますね。

 

 それで、ネットにはAくんのお父さんが状況を書き続けていくんだけど、途中でアラ探しのうまいネット論客が現れてこう指摘するんですよ。

「1960年生まれなら昭和何年って言うんじゃない?」って。

 

 昭和生まれの人は分かりますよね、あの頃は西暦を使ってないです。

 それで「その話は創作じゃないの」というツッコミが少数出てくるんですけど、「いや、1960年ってキッチリだからじゃない?」って反論が出たので、別段論争にもならず、お父さんの書き込みは続くんです。

 

亀田● それ、自分もそうだったよ。1965年生まれって言ったりしてた。

 

遠森■ ああ、亀田くんもそうだったか。そう、昭和の頃って元号優位だけど、刻みがいい数字の年の場合、西暦が使われたりもしていたんだよね。だからこのBさんも、生前からそう言っていたのかもしれない。

 

 あるいは、人は死後も霊体として生きつづけると仮定すれば、現代社会が西暦優位になったことを認識してるわけで、たまさか波長が合ってしまったAくんの口を借りて「私は1960年に生まれた」と言ったのかもしれない。

 それを聞いたお母さんによると、とても幼児の口調ではなかったと。

 

 それで、この事例で面白いのは、こういう出来事があっても、昔はここまでなんです。いくら不思議だと思っていても、一般庶民はこれ以上、なかなか深堀りができない。

 

 でも、今はご存知の通り高度情報化社会でありまして、いろんなツールがあるじゃないですか。インターネットはあるし、クルマもあって、ナビゲーション・システムまで付いてる。おまけに、お母さんは動画撮ってる。

 昔に比べ、ほんとにいろいろ出来るんです

 

 だからこのご夫婦は、Aくんを連れて、Bさんの暮らしてた家に行くんですよ。

 BさんはAくんの口を借りて「私は岩手県ナニ市ナニ町の、どこそこの家で生まれ育った」とハッキリ言ってるんです。

 しかも「30代でどういう病気で死んだ」とまで告げてる。

 だからAくんのご両親は、休日にAくんをクルマに乗せて、行くんだよ、そこに! 怖かったと思うけど。

 

亀田● 果たして、どうなったのかな!?

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